美容室の固定費増大で利益が減少??

第八話 美容室ビーアンビシャス大ピンチ‼固定費の増大で利益が減少!

 愛知でのスパニスト試験を終え、後日無事に合格通知が届いた柳井の元に独立前の店長時代に部下だった後輩から一本の電話がかかってきた。 
「ユキさん! 今勤めているお店が急に閉めることになりました」突然の電話である。 
「まじかい? いつさ?」柳井は驚き聞き返す。 
「いえ、もういきなり明日から営業出来なくなりました。明日から立ち入り禁止になります」 
「たっ立ち入り禁止?」 
「とりあえず、予約入っているお客様だけでもユキさんのお店借りて施術させてもらえないでしょうか? きちんと薬剤代や場所代は払います」 
「わかった。けど、セット面三面しかないから、一席貸すならなら何とか大丈夫」 
「それが…もう一人先輩が貸してほしいと言っているんです。ユキさんの予約状況最優先でいいので……」  
「二人かい? そりゃちょっと厳しいなぁ」 
「ご迷惑にならないように予約調整しますのでお願いします! ユキさん以外に頼るところがないんです」 
「わかった。じゃあとりあえず明日以降の予約状況教えて。席貸せるか予約状況見てみるから。あと、カルテは持ってきたらだめだよ。無くなるとはいえそのお店の個人情報だからね!」 
  
 こうして、柳井とアシスタントの二人体制から、緊急事態で一時的に貸すだけとはいえ、四人体制になった。 
柳井は、二人のお客様が来店するときに本当に在籍しているのか不安にならないように、一時的にホームページのスタッフ紹介に二人の後輩の名前を入力しておいた。 

 ところが、思いのほか二人を探してお客様がネット検索しているのか、一時的に貸すだけだったはずが、次々と二人の指名予約が入る。しかしそうなると席数が三席しかないので自分の指名客が入れなくなる。嬉しいことだが困った事態でもある。後輩二人もまさかこんなにお客様から問い合わせくるとは思っておらず、「ユキさんの元々のお客様に迷惑になっている」と感じている。 
 柳井は検索サイトのサーチコンソール機能の検索ワードを調べる。やはり、二人の名前で検索して美容室ビーアンビシャスのホームページやブログに相当数訪れていることが解った。 

 そして、二人からも「迷惑かけているので次を探します」と言ってきた。美容室ビーアンビシャスでは絶対に面貸し契約はしたくない。残るなら従業員としてきちんと雇用したい。しかし、現状では席が足りないしこれ以上のセット面増設も無理だ。 
 しかし二人には月に40万程見込めるほどお客様が来ているので、「二人とも条件のいい面貸しに行ったら雇用されるよりもっと稼げるよ!」と伝えた。 
 しかし、わずかな期間であるが、かつて共に働いた仲間と生き生きと働くのは楽しかった。柳井は悩んだ。この時にちょうど交通事故の保険金が入ってきたり、同じ建物の隣のテナントが空いたりしたので、資金的にもう一店舗隣に作ることは出来た。柳井は決断した。 
「よし、店舗拡張して二人とも従業員として雇用するわ! 集客も金額上げてどんどん新規を呼び込む!」 

 しかし、これが固定費の増大を招く過剰投資に繋がったのだった。 
  
損益計算書を基に解説すると…… 
(数値は一年間の数字を12で割って平均化したものです) 

アシスタントと柳井二人時代 

売上¥1,221,872
商品売上¥63,437
仕入¥141,525
売上純損益¥1,143,784
給料賃金¥172,820  
通勤交通費¥11,310
法定福利費¥5,849
福利厚生費¥14,430
広告宣伝費¥194,309
接待交際費¥23,958
旅費交通費¥28,223
通信費¥29,290
消耗品費¥32,053
損害保険料¥909
修繕費¥0
光熱費¥28,591
新聞図書費¥10,720
諸会費¥0
支払い手数料¥18,175
利子割引料¥3,990
地代家賃¥115,500
リース料¥15,908
車両費¥1,958
租税公課¥51,412
支払報酬料¥0
雑費¥29,512
減価償却費¥0
経費合計¥788,917
純利益¥354,867
変動比率36%
限界利益¥828,487
労働分配率15.1%
固定費¥473,620
変動費¥456,822
売上高¥1,285,309
損益分岐点売上高¥734,770

 
スタッフ4人時代 

売上¥1,970,482
商品売上¥57,234
仕入¥194,526
売上純損益¥1,833,189
給料賃金¥594,798  
通勤交通費¥31,080
法定福利費¥8,101
福利厚生費¥19,368
広告宣伝費¥303,159
接待交際費¥21,116
旅費交通費¥13,677
通信費¥17,638
消耗品費¥34,545
事務用品費¥2,578
修繕費¥1,123
光熱費¥56,250
新聞図書費¥10,720
諸会費¥5,033
支払い手数料¥29,775
車両費¥20,026
地代家賃¥215,000
リース料¥18,236
保険料¥11,446
租税公課¥81,109
支払報酬料¥842
雑費¥5,714
減価償却費¥90,737
経費合計¥1,592,071
純利益  
¥241,118  
変動比率44%
限界利益¥1,132,652
労働分配率32.4%
固定費¥815,955
変動費¥895,063
売上高¥2,027,715
損益分岐点売上高¥1,460,752 


 このように、売り上げ自体は増大したのだが、それによる変動費の増加と固定費の増加(主に広告費と地代家賃の増加)により利益が下がり、個人事業主は利益=事業主の給料なので、柳井の取り分が減ってしまった。 
 子供が3人いる柳井にとって30万以下の収入は厳しい。帳簿上は黒字でも、実際には生活費が足りず、預金を崩さざるを得なかった。 
 広告費を増やし、新規数が増えスタッフの売上も増加したものの、利益が下がって柳井のモチベ―ジョンも下がっていった。