美容室ビーアンビシャスの転機!衝撃のスパニスト資格講習‼

第四話 美容室ビーアンビシャスの転機! 衝撃のスパニスト資格講習‼

後輩の田中健から突然の電話が来た。
「ユキさん! プチ・ションティフィキ社のヘッドスパニスト資格取りに行きましょう!」 
「ヘッドスパかぁ うち、寝るタイプのシャンプーじゃないしどうかなぁ?」
「これから、スパの需要めっちゃ増えますよ」
 
 田中健もエアイングから独立し、今はアシスタントと二人で創成川近くで店舗を構えている。
 柳井は、敬愛するエアイング時代の後輩田中健の提案に、しぶしぶ承知する。
 プチ社の薬剤は常日頃使っているが、ヘッドスパはあまり乗り気ではなかった。
 

 プチ・ションティフィキ社(Petit scientifique)(以下プチ社で略)は、フランス語で子供の科学者という意味で、化粧品やパーマカラー処理剤の原料を開発する大手原料会社の研究員だった、能森利康(のうもりとしやす)氏が独立して起業した新進気鋭の美容メーカーである。
 数々の特許技術に関わった能森先生の創り出す粧材は、小さい会社ながら独創性に溢れ、開発能力も高いため一部美容師の間で評判になっている。

 柳井はもともと、独立前のエアイング時代からプチ社の高機能高性能の毛髪用処理剤やパーマ液を知り、かなり使いたかったが、エアイングは大手メーカーとの取引があるため実現できなかった。
 
 しかし、独立後にある時、北海道の老舗の美容ディーラー(問屋さん)である大木かつら店(1897年明治30年創業で当時は美容問屋ではなく、日本髪に使う“かもじ”という、今でいうかつらやウィッグやつけ毛のような物を扱うお店)の営業の小田という営業マンが突然店に来て、小田と社長の大木と話をすると、美容師以上に薬剤の事を勉強していて好感が持てたのと、プチ社と取引できますということで、プチ社の薬剤を使う事になった。
 その時に独立を間近に控えていた後輩の田中健にも「たなっち! 独立したら絶対プチ社の薬剤使いな! めっちゃいいぜ」と、プチ社の薬剤の良さを熱く語ったりしていた。

 プチ社の魅力は社長の能森自ら、インターネット掲示板で理美容師さんからの髪や肌の質問に丁寧に答える。という、大手薬剤メーカーにはない試みをしていたことである。
 
 【お答えします!髪と肌の疑問!】のという掲示板である。始まりは2005年の事であった。
 
 これにより、理美容師の間で、「めっちゃわかり易く髪の事教えてくれるサイトがある」と評判になった。
 今はこの掲示板自体閉鎖され見ることが出来ないが、当時の掲示板でのやり取りを少し紹介しよう。

 
 親水化・疎水化 投稿者ケミカルくん 投稿日2006年9月19日(火)01時28分0秒

 始めまして。質問です!
 傷んだ髪がキューティクルの剥離などが原因で内部のタンパクが溶け出していくのは、内部のたんぱく質が親水性で~
 そうなると最終的に疎水性(親油性)のヘリックスだけが残ることに~
 だけど傷んだ髪は親水化して水を良く吸うが保水力を失うので~
 
 ケミカルクンへ 投稿者noumori 投稿日2006年9月20日(水)13時20分38秒
 
 初めましてケミカルくん!
 早速質問にお答えしますね!
 タンパク質はもともとは親水性の性質を持つ物です。例えるとタオルのようなもので、タオルにも、水を吸いやすい素材のタオルや水を吸いづらい素材のタオルがあるのと一緒で、
 髪のケラチンは水を吸いにくいタオル、コラーゲンは水を吸いやすいタオルというふうに、吸いにくい吸いやすい等、基本的な性質の違いはあれど、どちらにしても水を吸う素材です。
 しかし、タオルをところどころねじったり、結んだりしたら、そのタオルの水の吸いやすさが変わってきますね。
 
 このタオルを絞る・結ぶなどの事を結晶構造が出来ると言って、疎水性の部分を作っていくんですね。
 結んだ箇所が多くなれば結晶性の高いタンパク質と言って疎水性を示し、結んだ箇所が少なければ非結晶性の高いタンパク質といって親水性を示します。
 つまり、結晶性のタンパク質はすべて疎水性でなく、親水性のところもあるが圧倒的に疎水性の結晶領域の多いタンパク質という意味なのです。
 逆に非結晶性のタンパク質というのも、すべて親水性ではなく疎水性の部分もあります。
 髪の毛の非結晶性ケラチンで出来ているのはマトリックスとエキソキューティクルです。
 親水性があるといっても水を吸い過ぎる状態ではなく、水にも溶けません。結晶性の部分も結構あります。
 でも、フィブリルと比べると結晶性の部分はかなり少なく親水性の性質と表現しているわけですね。

 その結晶性ケラチンでも非結晶ケラチンでも多かれ少なかれ結晶性が高く疎水性の場所は持っています。でも、元はタオルのように水を吸いやすい素材ですので、タオルの結び目やねじりを緩めてしまうと親水性の性質が強くなっていきます!これがのダメージによって髪が親水化するという事なんですね!

 このように、丁寧に髪の事を教えてくれる能森先生の凄さに感動し、多くの美容師が熱心に掲示板にいろいろ質問を書き込んだりするようになった。
 柳井もそのうちの一人で、札幌で開催された能森先生の講習に行くようになり、柳井が事故に遭った時も能森が見舞いに来てくれたりしたので、日ごろから能森には感謝していた。
 
 しかし、現在は札幌でスパニスト資格が取れるようになったのだが、当時は札幌からスパニスト資格を取りに行くには、愛知のプチ社の本社まで試験を受けに行かねばならず、北海道からだと往復の飛行機代と宿泊費と受験費用で6万はかかった。
 そして、愛知で受講後から3カ月ほど自主練習や勉強して、再度愛知へ行って学科試験実技試験本番に臨む。
 トータルで8万以上かかる。
 それも、柳井にとってスパニストを取る上で、躊躇せざるを得ない理由の一つであった。
 
 しかし、柳井は田中健の「これからはスパの需要絶対伸びますよ」という熱心な言葉に最後は賛同し、同じく賛同したプチ社薬剤を使いこなす為の勉強仲間である、先輩大東と後輩の馬場と田中と共に愛知までスパニスト試験を受けに行くことにする。

 4人とも日中はサロンワークをしてから、新千歳空港21:00発中部国際空港22時45分着の最終便に乗り、24時前に宿に到着。
 次の日午前中からスパ講習の為、どこにも行けずカップ麺の夕食を終え4人は就寝。
 
 会場入りし、午前中は能森先生自ら教壇に立ち、髪や頭皮や栄養学についての講義が始まった。

 ここで、柳井は衝撃を受ける。
「ビタミンAは・・・・・・」「セロトニンを・・・・・・」「亜鉛を取ると・・・・・・」「リンパ管の詰まりを・・・・・・・リンパ節で・・・・・・」「皮脂の分泌が多いお客様は・・・・・・食事を・・・・・・」

 面白い‼
 
 能森の講義は、髪や頭皮の話だけではなく、まるで栄養士の勉強かと思うくらいに髪や頭皮のトラブルの原因となる生活習慣や食生活の話等、幅広くそして、非常に勉強になった。
 柳井達、受講者は熱心に「あのお客様の頭皮のトラブル原因はこれかぁ!」「あのお客様こうだから皮脂が多いんだ!」などと、実際のお客様の症状を思い浮かべ重ねながら講義を聞く。
 
 何より衝撃なのは、アシスタント時代から経験してきた、お客様の症状やお悩みが、美容師視点からもっと広い視野で糸がつながったように能森の話と自分の記憶がリンクしたことである。

 昼食は時間の関係上、会場近くのファストフード店で摂り、午後も実技のトレーニングで充実した一日となった。

 そして最終便時間ギリギリなので急いで最終便で札幌へ帰る。
 4人は愛知で愛知グルメや観光する暇もなく、スパの勉強三昧の一日を終えた。
 
 飛行機は離陸し、4人は充実感と感動を覚えていた。
 
 スパニスト資格すごい!皆そう思っていた。

 「この内容なら、髪や頭皮のアドバイスはもちろん、明日からお客様に食事面のアドバイスもバンバンできますね! 早く帰って明日からどんどんお客様に言いたい!」「すごいすね! プチ社のスパニスト資格って技術だけでなく、生活の事まで深くアドバイスできるんですね!」「お客様がなんで頭皮いつも赤いかわかりましたね!」

 4人でこんなことを言い合いながら帰りの機内で興奮し盛り上がっていた。

 しかし柳井は後悔していた・・・・・・スパは勉強になったが、前日最終便入りの受講後即帰りは、あまりにも弾丸ツアー過ぎた・・・・・・愛知行ったのに、名物なんも食ってねえ。
 今回のスケジュールを組んだのは柳井だった。
 
「いやー勉強になったし充実しました。明日からのサロンワークが楽しみです」柳井の表情を察知して、後輩の馬場が気を使って言う。
 
「勉強になりましたけど、僕ら、愛知行ったのにカップ麺とハンバーガーしか食ってないですね! 本番の時はスケジュール余裕持たせましょう」
 田中健が言う。

 3か月後の試験本番の時は、試験受けて、翌日帰りにして愛知観光もしよう・・・・・・手羽先、味噌カツ、味噌煮込みうどん、きしめん、小倉トースト・・・・・・食べたかった・・・・・・
 とっくに日没を過ぎた、飛行機の窓の外の漆黒の雲を眺めながら柳井は強く思う。

 3カ月後再度愛知へ向かう。後悔の無いよう、4人でしっかり勉強して、うまいもの食べよう!

 しかし、柳井の考えた勉強方法で、万全だと思いきや、次回4人は本番の試験で窮地に陥るのだった!

 札幌で、認定スパニスト資格を取るなら、株式会社be ambitiousがサポートします。